こんにちは。林哲平です。
8体目のケルバーダイン、ベヴァルジェが完成しました。
製作途中写真はコチラ
GEISAI#用に作りました!
ベヴァルジェは9月2日に開催される(有)カイカイキキ主催、GEISAI♯17に出品するために制作したケルバーダインです。
GEISAI♯は日本を代表する現代アート作家、村上隆氏が主催する芸術の祭典。明日の日本を背負うアーティストを発掘することが目的で、今回で17回目を迎えます。
製作途中写真を掲載したときにも書きましたが、今回の制作テーマは「失われてしまった郷土玩具たちの怨念」です。
今までプロモデラーとして培ってきた技術を駆使し、オドロオドロしく、かつロボットとしての格好良さを損なわない塗装表現にチャレンジました。
塗装レシピ!
張り子は温かみのあるおおらかな形をしているので、表面はなだらかで比較的のっぺりとしています。
単色でベタ塗りにしてしまうと味気なくつまらない立体となってしまうので、塗膜を七層重ねた多重構造として完成時に深みが出るように塗装しています。
一層目 ガイアノーツ サーフエイサーエヴォ ブラックを全身に塗装。
下地に黒を吹いておくことで色の透けを防ぐことができるので、重量感のある仕上がりとなります。
二層目 ガイアノーツ ニュートラルグレー(5)
三層目 GSIクレオス ニュートラルグレー+エアクラフトグレー
グレーを二重に吹きつけ、少しづつ明渡を上げて行きながらグレーの下地を作ります。
四層目 GSIクレオス RLM71 ダークグリーン+ガイアノーツ ビリジアングリーン
五層目 GSIクレオス RLM70 ブラックグリーン+マホガニー
ニシキヘビの模様の意匠を加えつつ、迷彩塗装を施しました。
六層目 迷彩で隠れすぎたグレーをリタッチ、光の当たる部分に明るいグレーを軽く吹き付けます。
七層目 グリーンの上に調色した彩度の高いグリーンを軽く吹き付け、全体に鮮やかさを軽く加えました。
悪そうな紋章を刻む!
頭部と肩の紋章はカエルとドクロを模したもの。
郷土玩具が戦争や工業化に飲み込まれる様は、まるで蛇に飲み込まれるカエルのようでした。
赤く浮き上がる、赤いドクロのカエルは失われてしまった郷土玩具の怨念そのものなのです。
ひび割れを書き込む!
首より下に張り巡らされた黒筋は関節から流れ出る血液とも、黒い筋状の迷彩とも、ヒビ割れともとれるようにシタデルカラーのカオスブラックで書き込みました。
これは血やヒビ、戦争のための迷彩は死と怨念の象徴であるからです。
凹凸を強調する表現!
タミヤスミ入れ塗料のブラックとブラウンで全身にウォッシング塗装を施し、エナメル溶剤で部分的に拭きとって凹んだ部分を強調します。
そして全身をシタデルカラーのグレーでドライブラシ。凸部分にハイライトを入れて立体感を際立たせました。
さらに光が当たる明るい部分にはオレンジ、イエロー、レッドで、影になる部分にはブルー、パープルで軽くドライブラシをして陰影を強調しつつ、色数を加えています。
ベヴァルジェのようなどちらかと言うと地味なトーンの作品には、光の三原色とプリズムや虹でお馴染みの7色をできるかぎり全て使うようにしています。
こうすることで地味な色合いの作品であっても、ちょっと目をひくポイントや不思議な温かみを加えることができるからです。
何層にもわたるドライブラシの結果、胡粉で固まった紙のメクレや凹凸が浮き上がり、表面は甲殻類の殻のような様相となりました。
これは表面をグロテスクにすることで郷土玩具の怨念を強調したかったための表現です。
胡粉は本来滑らかに塗布するものなのですが、この仕上げにするためあえて表面が凸凹になるように塗りました。
ケルバーダイン最大サイズ!
全高250mm 全幅410mm 全長410mmと今まで制作したケルバーダインの中でも最大サイズとなりました。
隣のプロージェと比べるとその違いがよく分かると思います。
本業の作例以上に徹底的に塗りこみ、「怨念」というテーマのもと意味や比喩をこめた制作というものは暗中模索といった様相で、製作中はとても悩みました。
その甲斐あって重みのある、怨念の篭った作品へと仕上がったと思います。
そして…… これがベヴァルジェとして生まれ変わる前の、可愛らしい張り子たち。
伝統的な技法で一つ一つ手作りされた張り子は今ではそのほとんどが失われてしまいました。
かつて張り子で制作されていた犬やだるま、招き猫などはプラスチックの成形品へと取って代わられています。
これを「時代の流れだから」の一言で片付けてしまうのは、とても悲しいことだとは思いませんか?
情報革命まっただなかの今、新しい創作物や文化が無限に湧き出るかのごとく生み出されています。
その中で消えてゆくものを、常に忘れないようにしていきたいと私は思います。
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