こんにちは! プロモデラー林哲平です。
最近知って驚いたのですが「プラモデルのパーツには離型剤がついているから必ず洗わなければいけない!」と、ガンプラを普通に素組みするときですら洗うような、誤解している人がプラモデル初心者に増えているのです。
結論から申し上げますと、バンダイやタミヤのような生産体制のしっかりしている老舗国内メーカーのプラモデルのランナーはしっかり洗浄されているため、そのまま塗装しても大丈夫です。
実際、私は「ガンプラ凄技テクニック」で成型色仕上げで沢山の作例を作っていますが、洗ったことはありません。
ではなぜ、洗わなければならない、という誤解が広まっているのでしょうか?
今回はプラモデルの離型剤について解説したいと思います。
プラモデルと離型剤について
プラモデルは金属で作った型、いわゆる「金型」に溶けたプラスチックを圧縮して流し込んでパーツが成形されます。
これを「インジェクション成形」と言います。
プラモデルの金型は非常に高価で、金型代を回収するためには何千個と一つの金型で生産しなければなりません。
パーツを金型から外すとき、金型の負担を軽減し、破損を減らしてくれるのが離型剤なのです。
離型剤は金型からプラスチックで整形されたパーツを外しやすくするためのものですから、それが残っていた場合、塗料を弾いてしまうんですね。
離型剤が残っているプラモデルって?
「ランナーについた離型剤を洗う」という作業は、一部の海外プラモデルメーカーのキットで必要だった作業なのです。
90年代に数多く生まれた、中国や東欧などの新興海外メーカーのプラモデルには離型剤が付着したままで、そのまま塗装すると塗料を弾くため、洗浄が必要なキットがあったのです。
それでも、最近の海外プラモデルでは離型剤がついたままというキットはあまり見かけなくなりました。
ましてや生産体制や商品管理がしっかりしている、国内工場で生産しているメーカーのプラモデルだとまずそんなことは無いわけです。
実際、私はこれまでプラモデルを38年間くらい作っていますが、ガンプラなどの国内生産メーカーのキットをわざわざ洗浄して塗ったことは一度もありません。
大昔のドラゴンとか、ICMとか、イースタンエキスプレスのキットはまあ、確かにしっかり洗って作っていましたが……
国内キットのパーツに離型剤が残っている?
最近では国内メーカーでも海外型を使うメーカーさんも多く、それらのキットにたま〜に離型剤が残っていることはあります。
ただ、海外型を使っていれば全てのキットに離型剤が残っているというわけではありません。
大抵のキットはしっかりと洗浄されており、残り具合はキットによる個体差も多きいです。
同じキットでも、Aさんが買ったものとBさんが買ったものでは離型剤の残りが違ったり、生産ロットによっても変わります。
「一個のプラモデルに離型剤が残っていたから、そのシリーズは信用できない!全て洗わなければいけない!」というのは行き過ぎだと私は思いますし、正直大変です。
塗装せず、普通に組み立てるだけなら離型剤が残っていたとしてもほぼ問題はありません。
なぜパーツが塗料を弾くのか?よく見られる原因となる2つのパターン
「いや、それでもガンプラ作っていて塗料を弾いた!」
と、いう人もいると思います。
ですが、それは離型剤ではなく、別の要因です。
ここからは初心者だとまずわからない、プラモのパーツが塗料を弾く大きな2つの要因を紹介していきます。
原因その①手に油がついている
プラモのパーツが塗料を弾く一番大きな原因は、製作するときに手に油が付着していることです。
この油がパーツにつくと、塗料を弾いてしまうんですね。
普通〜に作っているぶんには指先の皮脂はほとんど問題にならないので大丈夫ですが、一番の問題は顔を指で触ること。
顔、特に鼻周りなどは皮脂が多く、その付近を触ったままプラモを触ると、鼻の油がパーツについて塗料を弾きやすくなってしまうんですよ。
また、食べ物の油も原因になります。
作業中にポテチなどのスナック菓子を食べている人が結構多いんですよ。
油で揚げたお菓子には当然油がついていますから、お菓子をパクつきながらプラモとか作っていると、余計な油がパーツについちゃうんですよね。
断食して作れ!とは言いませんが、お腹が空いたら一度食費休憩して作ってください。
そして、「あ、手に油ついちゃったかも」と感じたり、そういう行動をとったときは手を一回洗えばOKです。
原因その②プラスチックに弾かれやすい塗料を使っている
プラモデル初心者が一番気が付きにくい、塗料が弾かれる原因です。
プラモデル用塗料には様々な種類がありますが、他の塗料に比べ定着しにくく、プラスチックが弾きやすい塗料があります。
それは匂いが無く、初心者向けとして推奨される水性アクリル系塗料や水性エマルジョン系塗料です。
これら水性塗料はプラの表面を溶剤が溶かして食いついているラッカー系塗料と違い、上に乗っているだけです。
特に筆塗りするときなど塗料は薄めてつかいますが、その場合一回目に塗ったときパーツ表面で弾かれてしまうことがあるんです。
この現象を見て「やばい!塗料がパーツで弾かれた!原因はなんだろう?」と調べて、離型剤が残っている!と勘違いしてしまう人が多いように感じるんですよね。
ですが、薄めた水性アクリル系塗料が弾かれることがあるのは仕様です。
目に見えていなくても実は表面に塗料が残っており、 何回か弾かれても塗り続けているとだんだん定着していく場合がほとんどです。
塗料が弾かれるときは、塗料の性質もちょっと考えてみてくださいね。
どんなときパーツを洗うのか?
現在のプラモデル製作において、パーツを洗浄する場合で最も多いのは表面処理後の塗装前の下地作りをするためです。
パーツ全体をヤスリがけすると、細かいヤスリの粉がパーツの隙間に入ったり、作業中についた手の脂などを取り除くために洗っている人が多いです。
パーツをしっかりと洗浄すると塗料の食いつきが良くなるので、マスキングのとき塗料が下地から剥がれるミスを低下させたり、サフを吹かないぶん塗料自体の食いつきが重要になるサフレス塗装などにも効果的です
ただ、これはより綿密で美しく、塗料の食いつきを良くしてより素晴らしい仕上げを目指す中級者以上のモデラーさんにとっては重要な部分ですが、まだプラモデルを始めたばかりの人普通〜にガンプラを全塗装するぐらいであればそれほど必要とは思いません。
歯ブラシで表面をしっかりブラッシングするだけでも削りカスは十分に取り除けます。
私は表面処理したパーツは基本歯ブラシで粉を取り除きますし、しっかり洗うのはカーモデルのボディを作るときや研ぎ出ししてパーツにコンパウンドのカスが残っているときぐらいです。
プラモのパーツはどう洗う?
古い海外キットであったり、離型剤が残っているキットを作るとき、どう洗えばOKなのでしょうか?
これは中性洗剤をつけて、歯ブラシで洗ってください。
しっかり洗えば、それで十分に離型剤は落ちます。
ちなみに、最強のコンボはマジックリン+クレンザーですが、普通はここまでしなくても大丈夫です。
冷水よりもぬるま湯を使ったほうがよく落ちます。
もう明らかに離型剤が残っているようなキットであればランナーごと洗えばいいのですが、このとき小さいパーツがランナーから外れて、流れていってしまうことが結構あるんですよ(涙)
なのでパーツを洗うときは排水口にネットをしておくなど、パーツの紛失対策をしっかりととっておいてください。
洗ったパーツはタオルなどの柔らかい布を押し付けて水分を軽く取ってから、1日くらい陰干しして乾燥させればOKです。
超音波洗浄機は必要か?
おそらく、パーツの洗浄用としてメガネ用の超音波洗浄機が使われていることを知っている人も多いと思います。
メガネ用超音波洗浄機を使うと、数多くのパーツを効率的に洗浄することができるのでより素晴らしい仕上げを目指すモデラーさんで愛用されている人も多いのですが、普通にプラモデルを素組みするぐらいの初心者さんであれば、まず必要ありません。
必須アイテムでは無いということを覚えておいてくださいね。
箱から開けてすぐ作って大丈夫ですよ!
というわけで「プラモを普通に作るならパーツをわざわざ洗わなくていいよ」でした!
パーツ洗浄はどうしても必要になってから覚えるぐらいで大丈夫です。
なのでガンプラを塗ろう!と思っていても「ネットで全部洗わないといけないとか書いてあったし、面倒で大変だな〜」とか思わなくて大丈夫です。
インターネットでは悪い情報ほど拡散されやすい傾向があります。
プラモデルの世界でも例外はありません。
正しいか間違っているかではなく、危機感を煽り、マイナスの共感を得やすい情報ほど広まります。
「塗料が弾かれた」→「自分も弾かれた!」→「塗料が弾かれるのは離型剤が原因」→「離型剤がついたプラモデルもある」→「全てのプラモデルに離型剤がついている」→「全てのプラモは洗わないければいけない!」→「これは広めなければいけない!!!」
というように。
それが原因で、洗わなくてもいいプラモを洗って部品をなくしたり、作るのが面倒で嫌になってしまったりするなんて、私はすごく残念なことだと思うのです。
プラモデルは箱を開けてすぐ楽しめる、日本を代表する素晴らしい工業製品です。
個人的には洗わなくてはいけないような、昔の東欧スケールモデルとかすごい好きですしいろんな人に作って欲しいんですけど、普通〜は洗浄ってそこまで必要なものではないので、ぜひ気楽に作ってみてくださいね♪
追記 別に洗うのが間違いではありませんよ!
ちょっと追記です!
この記事は「無理に洗わなくても大丈夫ですよ」という初心者モデラーさん向けの記事であって、「洗うのは無意味」「洗うのは時代遅れ」「洗うのは悪である」と言っているわけではありません!
表面処理後にパーツの洗浄をするのは表面の汚れを落とし、塗料の食いつきを良くしてくれるので、マスキングを作業が多いキットの塗膜剥がれを防いだり、サフを使わないぶん塗料の定着力が低くなってしまいがちなサフレス塗装の最終下地処理としても効果的です。
私のモデリングスタイルだとあまり効果が無いのでよほどのことが無い限りやらないですが、洗う作業をすごく大切にされていて、すごく美しい作品を制作されるモデラーさんも数多いです。
なので、プラモデルのパーツを洗ったり、洗っているモデラーさんを見たり、そう紹介されている本などを見て「間違っている!」と糾弾したりするのはやめてくださいね。
100か0、白か黒かではなく、洗浄しなくてもOKなときだってありますし、洗うほうがいいときもあります。
プラモデルは仕上げの目的に合わせた様々な技法があるので、いろんな場合があるよ、と覚えておいていただけると私は嬉しいです
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プロモデラーとして、そのたびにたまらない喜びを感じます。
「プラモデルを趣味として作ってみたいけれど、ちょっと難しそうで手が出ない」という人はぜひ手にとってみてください。
プラモデルの楽しさをを体感する、手助けになれば私は嬉しいです。
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