こんにちは! プロモデラー林哲平です。
今回はカーモデルには欠かせない、クリアーの研ぎ出しについて徹底解説しています。
前回のボディ基本塗装編はコチラ。
「研ぎ出し」とはいかなるものなのか?
カーモデルについて、他ジャンルのモデラーの意見はいろいろなものがあると思います。
しかし、その中でも1つ、誰もが思っていることがあるとするなら
「研ぎ出しって難しそう。なんであんな高度な技術が標準的な技法として必須なの?」
ということに他ありません。
私もかつてはそう思っていました。
実践してみると、たしかにちょっと難しいけれども、思っていたほどではないかな?とも感じます。
ここからはそんな謎多きテクニック「研ぎ出し」についてできるだけ詳しく解説していきたいと思います。
研ぎ出しはプラモデルの塗装表面をクリアー層で覆い、表面を研磨剤で磨き上げて本物の車のような美しい光沢を得るためのテクニック。
1980年台に一部のカーモデラーが実車の塗装法を参考にして研ぎ出しをするようになり、模型誌で紹介されて広がりました。
研ぎ出ししたカーモデルは本物の車のような光沢になりますが、本物の車と同じ方法で表面を磨いているのでそれは当たり前なわけで。
そして今や、標準的なテクニックとしてすっかり定着した、というわけなんです。
クリアー層の形成が研ぎ出しのカギだ!
研ぎ出しでまず最初にやらなければいけないのがクリアー層の形成です。
これはクリアーの塗料を吹き付けることによって生成します。
研ぎ出しに使用するクリアーは大きく分けてラッカー系クリアーとウレタンクリアーがありますが、今回はラッカー系クリアーを使用します。
様々な模型用クリアーが販売されており、どれを選んでいいのか初心者だと迷うこと確実ですが、現在研ぎ出し用のラッカー系クリアーの中でも初心者でも使いやすいのがガイアノーツのExクリアーです。
今回はこれでクリアー層を作ることにします。
クリアーの硬化時間を甘く見るな!
研ぎ出しで重要になるのはクリアーが研ぎ出し可能になるまでにかかる硬化時間。
ラッカー系塗料は乾燥が早いですが、触っても手につかなくなる接触乾燥とシンナー成分が抜け完全に硬化して乾燥した状態である完全乾燥と2段階の乾燥状態があります。
クリアーの銘柄によっては研ぎ出しに耐える乾燥状態に到達するまで3ヶ月くらいかかるものもありますが、Exクリアーならば夏場の気温が25℃~35℃であれば12時間くらい、冬場ならば36時間くらいの乾燥時間をかければ研ぎ出しできるくらいの硬度に固まります。
また、これまた重要なのがどんな溶剤を使って希釈するか。
クリアーは乾燥の遅い塗料です。
たとえば冬場などにレベリング薄め液を使って希釈すると、乾燥時間が長くなりすぎて作業がまったくすすまないこともあります。(レベリング薄め液には塗料の伸びを良くするため、乾燥時間を伸ばすためのリターダーが入っています)
研ぎ出しの第一段階でクリアー層を作るときは、レベリング薄め液ではなく、通常のMr.カラー薄め液を使用するのがオススメです。
クリアー吹きとホコリ対策!
クリアーを2~3倍程度に希釈したら、一時間おきに全身に吹き付けます。
一気に吹き付けすぎるとクリアーが垂れたり、下地の塗膜を溶かすので要注意。
複数回吹き付けて、少しずつ層を形成しましょう。
また、クリアーがけで気をつけたいのはホコリ。
塗装する前に部屋を掃除機と雑巾で徹底的に掃除しておきましょう。
また塗装の1時間くらい前に部屋全体に軽く霧吹きで水を噴霧しておくと、水が下に落ちるときに部屋を舞っている空気中のホコリに吸着して落下して床に落ちるのでホコリの量を減らせます。
なお、クリアーを吹くときはボディを立てて、横からクリアーを吹くとホコリの吸着を減らせます。
最悪なのはエアブラシを下に向けてボディの上から吹く吹き方。
空気中のホコリを叩きつけるような感じになってしまうので、ホコリが着く確率がかなり上がってしまいます。
ただ、どんなに気をつけてもホコリはついてしまうものなので、ホコリが突いてしまったら即座にクリアー吹きを止め、30分から1時間くらい乾燥させてから1500番くらいの紙ヤスリで削り落としましょう。
全身がクリアー層でコートされ、塗装前よりも全身に滑らかな光沢が生まれました。
クリアーコートで光沢塗装をするときは、「クリアーで表面をツルツルにすればいいや」という単純な考えではなく、「パーツを透明の樹脂で覆い、それがレンズの役割をして光を反射させ、深みのある光沢となる」ということを理解しておくと作業するときの感覚が違ってきます。
この状態で十分!!! という人は無理はこの段階で完成としてもまったく問題無しです。
クリアー表面をヤスリがけして中研ぎする!
クリアーの層を重ねて塗膜が厚くなると、塗膜のヒケが大きくなり、表面にユズの肌のようなわずかな凸凹が時間とともに浮き出てきます。
鏡のような鏡面を得るためには、この凹凸はどうしても邪魔にります。
この凹凸を削りとって除去し、磨き上げる作業こそ「研ぎ出し」なんです。
まずは中研ぎから。
2000番のスポンジヤスリで表面を軽くヤスり、薄皮一枚剥くイメージでわずかな凹凸を削り取ります。
このときパーツのクリアー層が構造上薄くなってしまうパーツの角になっている部分にヤスリを当てるとクリアー層を前部削りきってしまい、下地の塗料が露出してしまうことがあるので要注意。
平面部分ではそうそう無いですが、やはりこの作業中に下地が露出してしまったときは、クリアーを露出した部分に再度Exクリアーをスポット吹きしてクリアー層を復活させ、再度やりなおしましょう。
全身がすりガラスのようなフラットな状態になればOKです。
研ぐのが難しい部分は慣れるまで手を触れないのも選択肢の1つです。
ビートルのような丸っこい車を中研ぎするときはスポンジヤスリで十分ですが、広い平面の多い車を紙ヤスリなどで中研ぎするときは必ず消しゴムで当て木をして中研ぎしましょう。
指の腹のやわらかさで紙ヤスリが僅かに歪み、表面にわずかな凹凸が出来てしまい、光沢が増すごとにその歪みが目立ってきます。
平面には消しゴムで当て木!!! 絶対やったほうがいいです。
ヤスリ目をクリアーで埋める!
中研ぎの削りかすを歯ブラシでしっかりこそぎ落とし、エアブラシでブローして細かなカスも前部吹き飛ばしたら光沢を復活させるためのExクリアーを吹きます。
コンパウンドで磨いても光沢を復活させることは可能ですが、2000番の下地から磨いてピカピカにするには大変な労力と時間がかかります。
クリアーを吹けばヤスリでついたキズをクリアーが埋めてくれるので、一発で輝くような光沢が復活するのです。
このとき吹くクリアーはできるだけ滑らかな表面に仕上げる必要があります。
Exクリアーをレベリング薄め液で3~4倍くらいに薄め、表面が濡れた光沢になるようにさっと全身にエアブラシで吹き付けます。
ここでレベリング薄め液を使うのは、少しでも表面を滑らかにするため。
この状態で表面が滑らであればあるほど、あとの研ぎ出し作業が楽になるのです。
このとき吹く塗料は薄めたぶん流動性が高くなっているので、吹き付けすぎると垂れてしまい、ボディ側面下部やフェンダーの内側に溜まった状態で固まってしまうのでここでも吹き過ぎには要注意!!!。
クリアーを吹いて光沢が復活したら、常温で1週間ほど乾燥させるのが理想です。
Exクリアーは乾燥時間が早いですが、最後に吹いたクリアーの乾燥時間はしっかりとっておいたほうが経年変化でキズやヒケが浮き出てくる可能性を減らせるのです。
コンパウンドで磨きあげる!
クリアーが乾燥したらコンパウンドでボディを磨きます。
使用するのはタミヤコンパウンドとハセガワのセラミックコンパウンド。
タミヤコンパウンド荒目→細目→仕上げ目→セラミックコンパウンドの順番で磨きます。
磨き用の布はタミヤの磨き用布がオススメ。
不織布なので糸くずが出ず、キレイにみがきあげることができます。
三色入っているので、コンパウンドの種類によって使い分けることができるのも高評価。
コンパウンド磨きのコツ!
磨くときは布にホコリやゴミが付着しないように注意しましょう。
ホコリやゴミがクリアーの表面を傷つけ、細かな磨きキズが発生してしまいます。
磨いていると表面が濡れたようなツルツルの光沢になり、コンパウンドを弾くようになったらその番手のコンパウンドでの磨きが終わった証拠。
コンパウンドはケチらずたっぷりと布につけて磨きましょう。
磨きで重要なのは最初の荒目と最後のセラミックコンパウンド。
荒目でしっかり磨き、クリアーの乾燥で出来たわずかな凹凸をしっかりと平滑にしておかないと、セラミックコンパウンドで磨いたあとに凹凸が目立ってきて、磨き残した場所が浮き上がってきます。
最後のセラミックコンパウンドは磨き布のわずかに染み込ませ、キュッキュッ! と音が鳴るようなイメージで窓ガラスを磨いて掃除するような感覚で磨くと驚くような光沢が出ます。
コンパウンド磨きのときもパーツの角には注意し、クリアー層を削りすぎて下地を露出しないように注意しましょう。
磨き布が入らないところは綿棒で磨きます。
強く力を入れすぎると綿棒の芯棒が先端から突き出し、パーツを傷つけるので要注意。
綿棒はタミヤの綿棒がオススメ。
先端がしっかりしており、長時間磨いてもバラけたり変形することが他の銘柄のものより少ないです。
コンパウンド磨きでは証明に気をつけよう!
写真ではなかなか変化がわかりずらいですが、ボディに映り込む電灯の光が最初に較べてより滑らかになっているのが確認できます。
ちなみに、磨くとき使っている電気スタンドがLEDを使用している場合、光度が高いために、自然光や通常の蛍光灯の光では見えない磨きキズが見えてしまい、それを消そうと磨きまくって下地を露出する危険があります。
磨いても磨いても消えない傷がある場合は他の種類の光で確認してみて、それで見えないようならそこで作業をストップするほうが健康的です。
また、細かな磨き傷は最終仕上げ前に全身に塗りこむハセガワのコーティングポリマーとタミヤのモデリングワックスを使うとほとんどわからなくなるので大丈夫。
研ぎ出し完成!磨くのは楽しいぞ!
最後に中性洗剤を溶かしたぬるま湯で、毛先の細い柔らかめの歯ブラシを使って全身を洗ってコンパウンドの削りカスを取り除きます。
一昼夜陰干しして乾燥させ、水分を飛ばせば研ぎ出し作業は完了です。
私自身、この段階では研ぎ出しはまだ4回しかしたことはありませんでしたが、初心者なりにこれまで失敗した部分や 技法書などで言及されていない気をつけるべきポイントを全て紹介しました。
研ぎ出しは作業を進めるたびにどんどん光沢が増すボディ を見るのが嬉しくなってきたりと世間で言われるほど苦しい作業ばかりでは無い技法です。
カーモデルを3体くらい、研ぎ出し無しのクリアー吹きっぱなし仕上げで完成させ、さらにクオリティをアップさせたいという人が挑戦するくらいがちょうどいいのかな? と思います 。
また今回のビートルは教材として製作する意味もあったのでキラキラに研ぎ出ししましたが、この時代の車はそれほどピカピカでは無いので半ツヤ仕上げとしてもまったく問題ありません。
最近のヨーロッパ車に見られるつや消し仕上げの「マットカラー」や、アメリカンホットロッドの1つであるあえて古めかしい塗装でしあげる「ラットロッド」など、車にはつや消し仕上げのものもたくさんあります。
ここまで紹介しておいてなんですが、「研ぎ出し」は絶対ではありません。
「研ぎ出し」にこだわってカーモデルが完成しなかったり、作る期会を失ってしまうのはすごく勿体無いことなので、ぜひ自分なりの塗装法でいろいろためしてみてください。
ボディが完成したので、次回はインテリアやシャシーの塗装法を紹介ていきます。
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