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ガンプラへの筋彫りはなぜ難しいのか? 精密の「エアモデル筋彫り」とデザインの「デッサン筋彫り」。筋彫りの歴史を知れば最適の練習法が見えてくる!

 こんにちは!プロモデラー林哲平です!

 ガンプラのディテールアップ工作として定番である筋彫りの追加。

 でも、筋彫りって難しいんですよね。

 まっすぐ引くのも、均一な線を引くのも。

 ましてやその二つを保ちながら、カッコいいオリジナルのディテールを彫るとか!

 私も筋彫りは超苦手なんですよ。

 でも、なぜガンプラへのスジボリは難しいのでしょうか?

 ズバリ、それはスジボリは同じように見えて実は二種類あり、現在のガンプラではその両方の要素を高いレベルで要求されるようになったからです。

  デッサン力を求められる「フィギアスジボリ」

 高い精度を求められる「エアモデルスジボリ」 の二つです。

目次

高精度のスケールモデルパネルライン表現「エアモデルスジボリ」の発展の歴史!

ハセガワ1/72イントルーダー。70年代発売の凸モールドキット

 まずはスジボリの歴史からおさらいしてみましょう。

 プラモにはいろんなジャンルがありますが、かつてはスジボリといえば飛行機モデラーの専売特許でした。

  昔の飛行機プラモは金型の掘り易さから凸モールドのものが多く、それを削り落として凹モールドにするのがエアモデルの定番工作だったのです。

 初期のスジボリはケガキ針を使い、定規やテンプレートを使って歪まないように工作していました。

 模型用工具が発達していなかった時代、手軽に自作できるケガキ針は便利でした。

 昔の模型雑誌の記事を見ると、自転車のスポークを尖らせて焼き入れして作ったりしていたんですよ。

 ただ、ケガキ針には欠点がありました。

 深く掘れば彫るほどスジボリが太くなり、スジボリの幅を一定に保つのが非常に難しかったのです。

 そんな中画期的な方法が開発されました。

  エッチングソーを使ってスジボリを彫り直す方法です。

  エッチングソーはノコギリなので、同じ厚みの幅で均一なスジボリを掘ることができたのです。

 エッチングソーを使ったスジボリ方法はモデルアート刊「空モデルテクニック」にて広くモデラーに紹介されました。

 ちなみにこの本、チェッカリングのマスキング法など現在でも通用する高度なテクニックが数多く紹介されている優れた技法書なのですが、なぜか本全体に謎の下ネタが散りばめられており、そのせいで評価が分かれるという謎本でもあります。

 私は凄い好きなんですけどね♪

 こうして飛行機モデルの世界では、筋彫りの精密さを突き詰めていく形で技法や工具が進化していった歴史があるのです。

エアモデルスジボリがガンプラのスジボリに革命をもたらした大事件!

 「空モデルテクニック」はエアモデル製作の技法書ですが 、この本で紹介されたテクニックをベースとして、「薄い刃物を使って均一なスジボリを彫る」 という技法を発展させ、ガンプラの世界に導入した人物がいます 。

 そう、パール塗装の盟主である石川雅夫氏です!

石川氏を世に知らしめることになったJAFCON模型コンテスト大賞のPGザク

 石川氏といえばパール塗装を模型の世界に広めた張本人です。

 ところでパール塗装へのスミ入れって難しくて、 きらめくメタリックの上に普通のスミ入れをしてもなかなか綺麗には仕上がらないのです。

 ここで石川氏が採用したのがカーモデルのドアやパネルラインのような、向こう側に貫通するかのような深いスジボリ。

 こうすれば自然な印影によりスミ入れ無しでも良く見えるんです。

 このスジボリを掘るために、石川氏がエッチングソーから着想を得たスジボリ用工具はそれまでとは段違いの性能で、氏のJAFCON大賞受賞、ホビージャパンでの技法解説により一般に急速に普及しました。

 BMCタガネやラインチゼルなどのスジボリ専用工具はこういうルーツがあるんです。

 石川氏のホームページには当時のことや技法発展のための研究過程、模型用素材についての非常に詳しい解説があり、今読んでも全く遜色なく、プラモデル製作に非常に役立つ情報満載なのでぜひ読んでみてください。

https://www.modelers-space.com/mmi/

高精度のスジボリをいきなりガンプラに彫るのは無理ゲーである!

 タガネやラインチゼルは最初はあくまでも「スジボリを彫り直すため」として登場した工具です。

 「オリジナルのカッコいいディテールをいっぱい彫る」ためのアイテムではなかったんですよね。

 飛行機モデルではスジボリを彫り直すとき、図面や元の凸モールドをガイドに彫ります。

 平面が多く、テンプレートやテープも使いやすいし、ラインも直接主体が多いのでなんとかなるんです。

 でも、 これがガンプラだったらどうなるでしょう?

 面構成が複雑で、凹凸が多いパーツに筋彫りを左右対称に、しかもオリジナルでデザイン性の高いものを引いていくのは大変です。

  せいぜい胴体と翼くらいの飛行機と違い、ガンプラはブロック数も多く全てにノギスや定規で測りながら左右対称に精度を保ちながら筋彫りするのはとんでもない手間なんですよね。

 ぶっちゃけ無理ゲーだと思いませんか?

なぜ、精度の高いオリジナルディテールを自由自在に掘れるモデラーがいるのか?

 ところがです!

 キャラクターモデルでオリジナリティとデザイン製の高いディテールを彫ることが出来るモデラーさんがいるのも事実です。

 セイラマスオ氏や伊勢谷大士氏、新井智之氏などは全てフリーハンドによる手彫りでディテールを掘っています。

 しかも超精密なものをです!

 何故こんなことが可能なのでしょうか?

 私は過去の模型作例を研究するのが大好です。

 作例の参考用に「ガンダムウオーズⅡプロジェクトミッションZZパーフェクトモデリングマニュアル」を見返していたとき。

 新井智之氏の作例を見ていて、フリーハンドでオリジナルディテールを彫るための秘訣のようなものを発見したのです。

 こちらの本には伝説的な新井氏のクィンマンサの作例と、新井ディテールの工作HOWTOが解説されているのですが……

 新井智之氏はデビューこそメカモデラーですが、のちに超高クオリティのフィギアを作る原型師として活躍されています 。

 そこで気づいたんですよね。

  オリジナルディテールやスジボリを掘る能力というのはフィギアを製作で必須となる能力である「デッサン力」と大きな関係があるというのではないか?と。

模型製作の手助けとなる「デッサン力」とは?

 「デッサン力」というのは物体の形状を正確に、立体的に捉える能力のことです。

  美術予備校などでは石膏像や静物をひたすら描いてデッサン力を鍛えるのをみなさんも知っていると思います。

  そしてデッサン力は造形力とも直結しており、デッサン力がある人はいきなりいいものが作れたりするんです。

 漫画家さんとか、いきなり高クオリティのフィギアを作れたりする人が多いのもそういう理由なんですよ。

 フィギアは全て立体的な曲面ので構成されているので、メカのようにディテールやスジボリがあっても定規やテンプレートをガイドとして使うことはできません。

  必然的に全てフリーハンドによる造形となります。

 でも、だからと言って熟達した原型師さんの作るフィギアに不自然なところは感ませんよね?

 そこで昔から作っている原型師さんのフィギアなどをデビュー前や過去まで遡って見てみると、初期の作品だと結構ディテールがゆがんでいたりする部分もあります。

  でも、現在では全くそれはわからない。

 つまり、多少最初は左右対称にならずゆがんでいても、とりあえず手を動かしていれば精度は後から付いてくるんですね。

 ここに我々ガンプラモデラーがスジボリでオリジナルディテールを彫ることが難しい原因があります。

 最初は歪むのが当然なのに、いきなり熟練したモデラーのような高精度を求めて難しい工具や治具を使い、一生懸命に左右対称に歪まないようにスジボリをする。

 これではかっこいいオリジナルディテールを掘るために必須である「デッサン力」がまったく育ちません。

0からデッサン力を鍛えるスジボリ練習法「引くだけスジボリ」誕生!

  初心者でも、なんとかしてデッサン力が必要なフリーハンド筋彫りを簡単に練習する方法はないだろうか?

 そこで思い出したのが、大学時代模型サークルの先輩から聞いた話でした。

 私は八王子にある帝京大学出身なのですが、学生時代、アトリエ彩を設立したプロモデラーの藤川明日香氏が設立した「EOS」という模型サークルに所属していたんです。

  私が入ったときはすでに藤川氏とサークルは関係は無くなっていたのですが、当時を知る先輩からサークルに入る入団テストがあったことを聞いたことがあるのです。

 入団テストは 「プラ板の上にフリーハンドでデザインナイフで真っ直ぐな筋彫りを掘る」 というもの。

 設立当初はアトリエ彩の原型師養成所的な意味合いの強いサークルだったので、必須技能となるフリーハンド筋彫りの素養をそこで見分けていたらしいのです 。

「筋彫りは素手で掘れ!」と常に言われていたんだとか。

 その後もサークル内ではフリーハンド筋彫りの練習として、プラ板にまっすぐな線を引けるまで練習させられていた人もいたとも。

  そこで思ったんです。 この方法こそ、フリーハンドで筋彫りをする入門に最適な練習法であると!

ここから着想を得たのが、「週末で作るガンプラ凄技テクニック〜ガンプラ簡単フィニッシュのススメ」で紹介している「引くだけスジボリ」の方法なのです。

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  この方法ならば塗装などの手間をかけず、短時間で面倒な手間無く成型色そのままのガンプラにデッサン的な「フィギア筋彫り」をいくらでも練習することができるんです。

 デッサン力が付いて左右対称っぽく見えるカッコいいディテールが引けるようになれば、あとは引いた部分をガイドとし、ラインチゼルやBMCタガネのような高精度スジボリツールで溝を彫り直して深めてやれば全塗装の塗膜でも埋まらない超高精度なカッコイイスジボリをガンガン掘れるようになります。

 2019年に開催された「ホビージャパン50周年祭り」でセイラマスオ氏から直接うかがったたのですが、マスオさんは石川雅夫氏がホビージャパンで製作工程を紹介していたビスマスパールキュベレイの筋彫り方法を見てカッターナイフでガイドを掘り、デザインナイフの後ろ側を薄く削ったタガネで筋彫りを深く均一に掘る技法を編み出したと語っていました。

 いや、着眼点が本当に天才すぎます!

スジボリなんて怖くない!

  私はスジボリ超苦手ですが、そんな私ですら、引くだけスジボリのおかげでこのMGガンダムVer.kaのようなスジボリ満載の作品を、超短期間で製作することが可能となったんです。

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 一見相反する 「フィギアスジボリ」 「エアモデルスジボリ」 ですが、実は融合可能なものなのです。

  特性さえ知っていれば、二つの技法の利点を重ね、より素晴らしい表現が可能となるのです。

 いきなりプロのプレイを真似ても難しいですが、最初は歪みがあっても、「引くだけスジボリ」で練習を続ければ必ずスジボリは上手になりますし、何よりも苦痛ではない、楽しい作業となります。

 「スジボリでディテール彫りたいけど難しいな」と感じている人はぜひ引くだけスジボリをやってみてください。

 この方法から始めた人の中から、未来のセイラマスオ氏のようなモデラーが生まれてくれたら、私は何よりも嬉しいです♪

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この記事を書いた人

 こんにちは! プロモデラー林哲平と申します。

 2005年より模型専門誌ホビージャパンの編集部に在籍。

 趣味、仕事合わせて3000体以上のプラモデルを組み立てた経験を活かし、プラモの楽しさをみんなに伝えたい!と実体験から得た製作テクニックなどを日々発信しています。
 

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